文京区立小の岩井臨海学校~来年はオリパラで中止。再来年からは廃止!?子どもや保護者・専門家の声を聞いて熟慮を!
文京区立小学校6年生で実施される「岩井臨海学校」の今後について、6月25日に開催された文教委員会で質疑した折の区の答弁です。
岩井臨海学校の今後
- 来年度は東京オリンピック・パラリンピックの影響で、期間中にはバスの確保が難しいことから中止の方向
- 来年度は臨海学校の代わりに、東京オリンピックを児童が観戦できるようにチケットの購入を申し込んでいる
- 再来年度からは、民宿の廃業傾向にあり、児童数が増加していることから、継続できるか未定
- 再来年度から臨海学校を廃止した折の代案は未定
5月に入るころから、「岩井臨海学校が廃止になるらしい」と保護者の間でささやかれ始めていました。
理由は、この4月に教育委員会が小学校PTA会長会に出向いて「来年はオリンピックの影響で、バス不足になることから中止にする可能性が高い」と情報提供をしていたことに始まりました。
「臨海学校が来年は中止になる」ということが保護者間で広がる中、来年も臨海学校に行けることを楽しみにしていた5年生からは「なんで自分たちはいけないの?」と疑問があがってきます。「遠泳を楽しみにして水泳を頑張ってきたのに」と、泣き出す子どももいると聴きます。
保護者の中からは
- 「楽しみにしてるのに、臨海学校が中止になることを子どもに言えない」
- 「オリンピックを言い訳にして、もともと臨海学校をやめたかっただけでしょう」
- 「塾の夏期講習で臨海学校に参加しない子が増えてきているのが原因じゃない?」
- 「昨年、アカエイに刺された先生がいても、保護者に報告がないほどだから子どもの安全確保も難しいと判断したのかも」
などなど、様々な憶測が飛び交っています。子どもにも保護者にも、「なぜ?」という疑問は膨らむばかりです。
疑問は当然です。
小学校の学習指導要領には、
オリンピック・パラリンピックに関する指導の充実については,「児童の発達の段階に応じて,ルールやマナーを遵守することの大切さをはじめ,スポーツの意義や価値等に触れることができるよう指導等の在り方について改善を図る
とされています。
このように明記されていることからすると、スポーツの意義や価値等に触れさせるという観点から、オリンピック観戦の機会を与えるというのは、一定、理解できます。
学習指導要領には、以下も明記されています。
雪遊び、氷上遊び、スキー、スケート、水辺活動などの取扱いとして、「自然との関わりの深い活動については、学校や地域の実態に応じて積極的に行うことに留意すること」
水辺活動とは遠泳や臨海学校等を実施することです。
つまり、これらは別々の学習であり、オリンピック観戦が臨海学校を中止することの代替えにはならないのです。
目次(クリックすると移動します)
どのような議論があったのか!?
情報公開請求をかけて議論の経過を調べてみました。
昨年6月から文京区教育委員会は、「魚沼移動教室・岩井臨海学校のあり方検討会(以下、あり方検討会)」を立ち上げ、魚沼移動教室と岩井臨海学校について協議し、3月に結果をまとめていました。その検討結果の報告を受けて、教育委員会として最終的に意思決定するとしています。7月8日現在では、まだ、教育委員会で意思決定はなされていません。
あり方検討会の検討結果報告では、岩井臨海学校について「廃止すべき」として、以下のようにまとめています。
本区において長年継続してきた岩井臨海学校であるが、岩井海岸周辺の民宿の減少傾向、海を取り巻く自然環境の変化等を考慮すると、今後、従前通りに臨海学校を運営していくことは困難と考えられる。また、岩井以外の新たな場所での実施も宿泊施設の確保の関係から非常に困難な状況であることから、小学校第6学年の臨海学校は、平成31年度の実施をもって廃止すべきである。ただし、自然体験機会の確保は文京区の子どもたちにとって大切であることから、何らかの形でそれらを補完する代替策を講じることが望ましい。また、小中学校9年間を通した校外学習全体の中で自然体験の充実を検討していく視点も必要である。
また、今回の検討結果の報告の「岩井臨海学校の現状と課題」の中には以下の記述があります。
平成32年度は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催期間と重なるため、競技大会の「子ども競技観戦」等との日程の調整が困難である。また、バス需要のひっ迫のため、大会組織委員会から教育関連旅行の時期の調整等の協力依頼が行われいる状況や、バス事業者から当該時期のバスの確保が保証できない旨伝えられていることを踏まえると、輸送手段の手配が困難になることが想定される。
来年度の中止はオリンピック・パラリンピックを一つの理由にしています。が、これは明らかに廃止のための後付けの理由にすぎないと考えます。
かつて、文京区教育委員会では、平成24年度にも、岩井臨海学校の今後の在り方について検討しています。
(臨海学校を実施することについて、)
文京区とは異なる海浜の自然の中で、水泳を中心とする豊かな自然体験を積むことにより心身を鍛えたり、感動する心を培ったり、豊かな人間関係を育んだりなど、児童の成長にとって重要な多くの教育的効果を上げてきた。
としながらも、課題として、
各家庭におけるレジャーや生活経験が豊かになり、マリンスポーツも人気を得ている状況下、沖縄や海外で海水浴経験のある児童も昔と比べ増加している。夏季休業中で、夏期講習や家族旅行で不参加の児童もおり、臨海学校に向けた準備を授業に位置付けて行うことが難しい学校もある。
といった課題を整理し、以下のように結論付けていました。
イ 今後の方向
各家庭の生活様式や夏季休業中の過ごし方が多様化していく中でも、臨海学校に楽しみと期待を寄せている児童が多い。刻々と変化する潮流や潮の干満、身体に触れるさまざまな生物、海水の塩辛さ、プールよりはるかに軽く感じる体重など、プールとは違う「生きた水」からの学びがあり、臨海学校は「本物の自然」を体感できる機会となっている。
林間学校と同じく夏季施設のため、その実施に向けての指導や事前準備に時間が必要となり、授業時数の確保への影響が懸念される。
しかし、バディシステム等をはじめ命の守り方(自身と他者) とともに命の大切さをも実感することができる貴重な学びの場であり、社会的能力や徳育的・身体的能力など「生きる力」の獲得が期待できる活動として改めて認識すべきものである。よって、臨海学校は今後も実施した方が望ましいと考える。
対象学年は、第5学年に移行することも考えられるが、小学校6年間の水泳学習の成果と発展として多くの学校が耐久泳を実施しており、体力面を考慮すると、現行の第6学年での実施が適当である。
(校外学習の在り方検討委員会審議結果報告)より http://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0062/7991/kougaigakusyuhokoku.pdf
今回の検討会の結果に至るまでの議事要旨を読むと、出席している小学校校長から、初回に以下の発言がされています。
前回の議論の際にも、校長会としては廃止という結論だったが、区の意向で継続することとなった。岩井はこれまで長い間続いてきた。開始当時は家族で海水浴もままならない中、学校として海に子どもたちを連れていくという意義もあり続けてきたが、もう学校が海水浴を担保するという時代ではなくなったのではないか。
前回の議論では、東日本大震災や津波の影響もあり、一定の役目も終えたので岩井を廃止するということが校長会の結論だった。その当時と校長会のメンバーは入れかわっているが、校長会の意向としては、やはり今でも廃止という方向になると思う。
昨今の教員の働き方改革に照らし合わせると、宿泊行事の実施はとても負担が大きい。
議事要旨には、中学校校長と教育委員会事務局との以下のやり取りもあります。
●中学校校長
臨海や登山の経験は、今の子どもたちにとって貴重な経験だと考えている。家庭によって、そのような自然体験ができる家庭とできない家庭があるため、公教育ではすべての子どもに平等に体験させられるというのが、あるべき姿だと思う。
小6の臨海をなくすのであれば、中2の宿泊行事が何もない空白期間があるが、ここに何か作れないか。以前はスキー教室をやっていた時期もある。
●教育委員会事務局
中学校長会で検討していただき、その上で、中学校長会としてのご要望があれば、検討することとしたい。
「子どもの貧困」の視点からも「自然とのかかわり」は継続に向けて知恵を絞るべき
今の日本では、子どもの7人に1人が相対的貧困の状態であり、家庭の経済的貧困は、子どもから学習の機会やさまざまな体験活動の機会が奪われることにつながることが知られています。
平成28年に都が実施した「子供の生活実態調査」では、「金銭的な理由」で体験の格差があることが明らかになっています。
子供の生活実態調査 http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/joho/soshiki/syoushi/syoushi/oshirase/kodomoseikatsujittaityousakekka.files/04dai2buseikatukonkyuu.pdf
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学習指導要領に明記されたことは、親の経済的な状態にかかわらず、自然とのかかわりで海水浴等の体験機会を提供することであり、「子どもの貧困」の視点から考えても「自然とのかかわり」は継続に向けて知恵を絞るべきだと思います。
子どもの安全を守るために専門家の知恵を
さらには、子どもの安全面の課題にも配慮した「自然とのかかわり」についての熟慮も必要になってくると思います。
議事要旨の中では、臨海学校について、クラゲの出現が早期化傾向にあることの指摘があり、児童の安全確保が難しいと、課題としてあげられています。
教員の働き方改革の流れからも、教員だけで子どもの安全を図るのではなく、海の危険、楽しみ方に精通した専門性のある人材の確保を外部委託も視野に入れて検討することも必須だと考えますし、検討会においても、そうした専門性のある人も委員として入れて、手立ての検討を行なうべきだと思うのです。
また、議事要旨の中にはありませんが、大震災がいつ起きても不思議ではない中、 津波についても考慮が必要になるのではないでしょうか。
子どもたちの宿泊施設に耐震性があるのか。地震発生時に、高い山など速やかに避難する高い場所があるのか。他自治体では、子どもたちが安心して自然とのかかわりができる施設を持っています。
子どもの命を預かる視点から、岩井臨海学校の宿泊施設について、どのような課題があるのか、教育委員会として示していくのも重要だと思うのです。
「魚沼移動教室」の日数短縮提案も
魚沼移動教室の今後について
あり方検討会は、尾瀬ハイキングをやめて自然体験とともに歴史・文化体験を充実させたプログラム「魚沼移動教室」に変更し、日数を3泊4日から2泊3日に短縮すること」も提案しています。 が、長期宿泊体験活動には、長期である意味があります。
魚沼移動教室は、平成24年度に開催された「校外学習のあり方検討委員会審議結果報告」で決定されたものです。 6年での移動教室を5年生でも行く八ヶ岳高原学園から、文京区とつながりが深く、災害協定を結ぶ魚沼市での実施に変更することを決め、学習指導要領で小学校における長期宿泊体験活動を推進している趣旨や、「人間関係・コミュニケーション能力」等の育成において2泊3日に比較して3泊4日以上の方がより高い効果があること、宿泊体験活動との関連性が一般にあまり意識されていない「いじめ」、「不登校」等の解消にも効果が認められるなど、多様な効果が期待できることが明らかになっている」として、3泊4日の宿泊体験を決めた経緯があります。
尾瀬ハイキングを廃止する理由としては、
尾瀬環境学習により全体の移動距離や移動時間が長くなり、天候や気温にも大きく左右されることから、児童には体力的に厳しい状況になっている。また、宿泊施設が市街地から遠く離れているため、急病や災害等の緊急時の対応に不安が残る。さらに、近年の児童数増加により、2020年には宿泊施設の不足が見込まれていることや、学習指導要領の改訂に伴い標準授業時間数が増え、授業時間数の確保が求められている。
学校の事情だけでなく、子どもの「学ぶ視点」から考えて
これまでの尾瀬環境学習や3泊4日の長期宿泊体験学習を、子どもたちはどのように感じていたのでしょうか。保護者の方は、お子さんの感想や前後の様子の変化など、どのように捉えているでしょうか。
教育は、提供する側の論理や事情だけで決めるのではなく、学習する側、すなわち、主体である「子ども」の側の「学習の成果や課題」の検証をないがしろにしてはならないと思います。その意味では、学校による評価・検証だけでなく、保護者の声も広く収集すべきだと思います。
例えば、天候や気温に大きく左右されることを身をもって知ることも、子どもたちの学びにつながることかも知れません。
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魚沼移動教室、岩井臨海学校の今後のあり方について、
子どもたちの安全をどうやって担保し、子どもたち自身が「学ぶ力」を存分に発揮できる体験機会をどうやって確保するか? 保護者とともに、さらには専門家も加わって、より深く熟慮することを求めていきます。
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海津さん、お世話になっています。
読めば読むほどに納得がいかない。
小Pの会長会では、学務課が「代替事業を検討している」と言った言葉から岩井と同等の「教育上有益な安価で参加できる平等な自然体験学習」を学務課が考えていると思っているからこそ、岩井廃止に対して異論を出さないのでしょう。が、しかしその代替事業の中身が、連携自治体に行く、高価なパックツアーだとしたら会長会はそれでも岩井廃止に同意をするのでしょうか?
学務課は自分達に都合の悪い情報を伝えず、廃止のOKをとろうとしているように見える。
岩井の代替事業を明確に保護者に向けて説明してください。
他自治体で宿泊学習の継続が難しくなっているところは、宿泊施設を持たないところです。
自然体験学習の重要性を鑑みるときに、解決すべき課題がわかっているなら、文京区として独自の施設を持つという選択肢も検討すべきと考えています。
いずれにしても、学校単位で、責任者が校長等で、自分をよく知る担任やクラスメートが一緒であっての自然体験であることが重要です。仮に、ご指摘のように自然体験ツアーにそれぞれが参加ということになれば、金額的にも、現状の金額での参加は難しいと思いますので、家庭の経済状況であきらめざるを得ない家庭もでてくると考えます。
すべての子どもが参加できることを前提にした、学校単位の自然体験学習の継続を要望していきます。