来年2月都立高入試で英語スピーキングテスト(ESAT-J)導入~東京都教育委員会にとっては「特に重要」ではないこと!?
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◆ 「特に重要な事案」ではない!?~都教委に取材
東京都教育委員会は、来年2月の都立入試から、英語を話す能力を測るスピーキングテスト(ESAT-J)を新たに導入することを決定しています。
子どもに達にとって、高校入試は、人生を左右してしまうほどに感じる非常に重要なこと。
しかし、都教委は、英語スピーキングテストの都立高入試導入について、東京都教育委員会事案決定規程上の「特に重要な事案」とは考えておらず、導入の責任もあいまいであることが、手続きの過程を調べてわかりました。
行政は、憲法、法律、また条令・規則に基づいて事業を策定し、丁寧な手続きを踏んだ上で、施策を実施していくことが責務です。
文京区の子どもたちにも大きく影響することでもあり、東京都の条例・規則等を記載した例規集に基づき、英語スピーキングテストを都立高校入試に導入することを「誰の責任において」決定したのか、都教委に取材しました。
◆ こんなに指摘されている様々な問題点
英語スピーキングテストの都立高校入試への導入には、各方面から実に様々な問題点が指摘されており、中止・延期を求める声があがっています。
- 進路指導へ影響・・生徒の心理的負担が大
- 都立高校入試に活用する英語スピーキングテストは、11月27日(予備日12月18日)に実施。例年、期末考査終了後の12月面談で仮内申書が伝えられ、生徒は1月上旬に志望校を決める流れ。
- しかし、都立高入試に用いれらるスピーキングテストの結果は、一月中旬に受験者に届く。
- 内申書+スピーキングテストの結果に照らして志望校を決めるのは難しい。
- 1月中旬に届く結果次第では、志望校を再考する必要も出てくる。生徒にとって精神的な負担は大きい。
- 12月面談での進路指導は予測が立てにくい
- 1月中旬になってやっと届くテスト結果によって志望校の選択も再考しなければならない可能性がある
- 試験の実施方法
- 11月27日に実施されるスピーキングテストは8万人が受験。
- 当日は、同じ試験内容で時間帯をずらして前半・後半に分かれて実施。
- 後半の受験生に情報が流れて有利になる可能性は?
- すでに実施されている民間英語力測定テストと酷似
- 都教委は、英語スピーキングテスト(ESAT-J)を実施する民間事業者としてベネッセコーポレーションを選び、約5億円を計上。テストの内容は、都教委の監修のもとベネッセコーポレーションが作成。
- そのベネッセコーポレーションが実施している小学生から社会人まで英語力が測定できるテスト「GTEC」は、都がベネッセに委託するスピーキングテスト「ESAT-J」と、問題構成、出題形式、出題数、回答時間もほぼ同じ。
- 現在、都内の自治体によっては、中学校で「GTEC」を利用している。その自治体の生徒は都立高入試に向けての慣れや練習を重ねることができ、住んでいる自治体によって格差が生まれる。
- 英語を話す能力で最高20点を加点
- 来春の都立高校一般入試は、学力検査(英語・数学・国語・理科・社会)700点満点、調査書点(内申点)300点満点。
- さらに英語スピーキングテストの結果を最大20点加えた総合点で合否が決まる。英語の「話す」という一教科一分野での比重が大きいが、その理由は説明されていない。
- 採点方法
- 8万人の受験者の採点をフィリピンで実施する。どのような人材が採点するのか不明。
- 受験者は、タブレットのマイクを使って問題に対しての解答を録音する。
- 録音データはフィリピンに送られて現地で採点する。
- 吃音障害などがある生徒たちの録音データは適切に採点されるのか。
- 英語スピーキングテストを受験しなかった生徒に対して
- 都教委は、都教委が認める理由でスピーキングテストを受けなかった生徒が不利にならないように扱うとして、受験しなかった生徒の、一般入試での英語学力検査の得点と同じ得点だった他の受験生達の英語スピーキングテスト結果の平均値で、仮のスピーキングテスト結果を決める。
- 朝日新聞(2022年6月7日)の記事によると、入試を研究する中村高康・東京大学大学院教授は、他人の点数から推計して加点するやり方を疑問視。「個人の能力を測定するのが入試で、個人の能力以外のものは極力避けるのが今までのやり方。正常ではないのではないかと危機感を持っている。許容していいのか」と。
◆ 東京都教育委員会への質問と回答
以下は、私が、東京都教育委員会事案決定規程に基づき、英語スピーキングテストを都立高校入試に導入した手続きについて、東京都教育庁担当課宛に送った質問と回答です。
「海津の考え」の箇所は、現時点で加筆したものです。
東京都教育委員会事案決定規程に基づき、英語スピーキングテストを都立高校入試に導入した経緯についてお尋ねします。
ちなみに、事案決定規程は、以下の通りになっております。
(事案決定の原則)
第三条 事案の決定は、当該決定の結果の重大性に応じ、委員会又は教育長、部長、課長若しくは課長代理が行うものとする。
(平二七教委訓令一・一部改正)
(決定対象事案)
第四条 前条の規定に基づき、委員会又は教育長、部長、課長若しくは課長代理の決定すべき事案は、おおむね別表に定めるとおりとする。
九 報告、答申等に関すること。
区分:委員会 一 特に重要な事項に関する報告、答申、進達及び副申に関すること。
都立高入試における英語スピーキングテストの実施に向けてこれまでに、2017年12月「東京都立高等学校入学者選抜英語検査改善検討委員会報告書」、2019年2月「英語『話すこと』の評価に関する検討委員会報告書」をまとめられた経緯があります。
いずれの報告も、高校入試という子どもにとっては大きな選択においては、事案決定規定に示された「特に重要な事項」に該当するものです。
しかしながら、いずれの報告も、教育委員会定例会で議案としてとりあげられないまま、導入が決定しています。
手続きが実に不明朗で、誰が責任を負っているのかがわからず、非常に問題を感じます。
定例会において、報告書が報告された議事録からは、報告書の内容について委員からの意見を「聞き置く」だけに終わった印象をもちます。
直近でも、今年2月の定例会において、「スピーキングテストの取組状況」といった報告が行われているのみであり、いずれにしても、都教育委員会が、条例で都民に約束した「特に重要な事項」を決定する手続きとは言い難いものとなっています。
大人の事情ではなく、子どもにとって何が一番良いのか。その判断がどのような検討過程を経て決定したのかがわかるよう、条例に沿った手続きのご教示をお願いいたします。
以下に、7つ、質問を整理いたします。
◆質問1
事案決定規定に書かれた、「特に重要な事項に関する報告」とは、具体的にどのような基準で判断されるのか、示してください。
▶回答
東京都教育委員会事案決定規程等に基づき、個々の案件に応じて判断しています。
★海津の考え
回答からわかるのは、個々の案件に応じて判断すると、都立高校入試で英語スピーキングテストは、都教委として「特に重要な事項」とは考えなかった、ということです。
また、基準も示せないということは、今後も「決定規程等」は自分たちの解釈でいかようにもなるものだと言っているに等しいことです。
◆質問2
「東京都立高等学校入学者選抜英語検査改善検討委員会報告書」、「英語『話すこと』の評価に関する検討委員会報告書」、「令和4年度東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告書」は、事案決定規程に書かれた「特に重要な事項に関する報告」にあたるのでしょうか、あたらないのでしょうか。
▶回答
東京都教育委員会事案決定規程等に基づき、個々の案件に応じて判断しています。
★海津の考え
自分たちの解釈では、「特に重要な事項に関する報告」には「あたらない」と強調しただけです。
本来なら、どの区分と判断したのかを書くべきです。その事実は明かしたくないのだと思えてなりません。
子どもの視点で考えれば、特に重要な事項になります。が、スピーキングテスト導入で動く大人の事情からすると、「特に重要な事項」として教育委員会で審議をして、まかり間違って否決でもされたら一大事という思惑があったのではと考えます。
◆質問3
都立高校入試に導入する英語スピーキングテストの予算は、東京都教育委員会と株式会社ベネッセコーポレーションによる、「民間資格・検定試験を活用した東京都中学校英語スピーキング(仮称)」事業として約5億円計上されています。この事業そのものの決定は、教育委員会のいつ、どこでなされたのでしょうか。
▶回答
東京都中学校英語スピーキングテストの実施については、平成31 年2 月14 日、東京都教育委員会事案決定規程等に基づき決定するとともに、教育委員会定例会において報告しました。
★海津の考え
この回答でも、都立高入試に導入することを、都教委としては「特に重要な事項」には当たらないと考えた、と強調しています。教育長、教育委員会事務局で決めたことを、教育委員に報告するだけで「済ませる」程度の手続きで良い事案なのだという回答です。
◆質問4
都立高校入試に英語スピーキングテストを導入する報告書等を議案として審議することなく、都立高校入試への導入を決定しています。報告はいつ、どの段階で「決定」となったのでしょうか。
また、決定の責任の所在は、誰にあるのでしょうか。決定した日時、会議名等とともに、明確に示してください。
▶回答
東京都中学校英語スピーキングテストの実施については、平成31 年2 月14 日、東京都教育委員会事案決定規程等に基づき決定するとともに、教育委員会定例会において報告しました。
★海津の考え
決定の責任の所在が明確になっていないのが、よくわかります。
「特に重要な事項」を決定するために存在する「教育委員」に諮る必要はないと判断し、事後報告に留めた事実からは、多大な影響を受ける子どもたちのことなど気にもかけていない姿勢が透けて見えます。
今回の決定が、手続きも不明瞭で責任の所在も不明瞭。何よりも子ども・保護者など当事者を置き去りにした、欺瞞に満ちた決定だと思えてなりません。
さらには、責任の所在を明確に回答できないということは、裏を返せば、教育長と教育委員会事務局だけで判断した証左ではないかと感じます。
◆質問5
教育委員会に責任があるとするなら、議案として審議せずに責任が伴う事業となったことの根拠を、条例に基づき示してください。
▶回答
東京都教育委員会事案決定規程等に基づくものです。
◆質問6
教育行政もまた、税金によって運営されているだけに、条例に基づく手続きが不可欠であり、教育委員会は、明朗な判断根拠を示して進める義務があります。英語スピーキングテストの都立高校入試への導入に際しては、「東京都教育委員会事案決定規程」に基づいた手続きで、子ども・保護者はもとより、都民に対して十分な説明責任を果たしているとお考えでしょうか。
▶回答
東京都教育委員会事案決定規程等に基づき、本事業を進めています。
また、生徒・保護者等に対して、引き続き、リーフレットやホームページ等を活用し、周知を図ってまいります。
★海津の考え
周知は、自分たちに不都合なことは伏せていくものであってはならないはずです。
どこで決定したのかがわかるように、説明責任を果たせる議事録等も公開すべきですが、現時点ではそうしたものが一切公開されていません。
◆質問7
先月30日に浜教育長が、東京新聞のインタビューに応じ、
「見直す必要はないと思っている」
「テストの結果を来年の都立高入試に活用する方針も変わりはない」
と話をされています。
そもそも、教育委員会制度は、「教育行政における重要事項や基本方針を決定し、それに基づいて教育長が具体的な事務を執行」するものです。 さらには、教育委員会制度の特性のひとつ「レイマンコントロール」は、「住民が専門的な行政官で構成される事務局を指揮監督する、いわゆるレイマンコントロールの仕組みにより、専門家の判断のみによらない、広く地域住民の意向を反映した教育行政を実現」すべきものです。
そこで、教育長が明言された「見直す必要がない」「方針も変わりはない」という考えは、レイマンコントロールが機能した上で、条例に示された手続に沿って行った教育委員会制度の決定の上に成り立つものであるはずと考えます。
そうであるならば、英語スピーキングテストを都立高入試に活用する「方針」は、教育長が今回のインタビューで拠り所にされた「教育委員会」の、何月何日の会議で審議・決定されているのでしょうか。
▶回答
東京都中学校英語スピーキングテストの実施については、平成31 年2 月14 日、東京都教育委員会事案決定規程等に基づき決定するとともに、教育委員会定例会において報告しました。
★海津の考え
要は、都教委事案決定規定等に基づき、教育委員会でレイマンコントロールを機能させた審議・決定という手続きはとらずに報告のみですませた、といっている回答です。レイマンコントロールが機能していない危うさを痛感します。
◆ 「規程等に基づき」の一点張り!説明責任を果たす気はないのか!?
1~7全ての質問に対して、「東京都教育委員会事案決定規程等に基づき」の一点張りであり、要は、自分たちは規程に基づいて正しく仕事をしている、という主張を繰り返しているだけで、質問の主旨を汲んだ説明責任を果たしている回答とはとても受け取れません。
そもそも、当事者である受験生やその保護者に対する説明責任を問う質問に対して、「引き続き、リーフレットやホームページ等を活用し、周知を図ってまいります」との回答は、「説明責任は果たせないので、とにかく広報していきます」と言っているのに等しく、今回の決定が当事者である受験生や保護者を置き去りにしたものであることを認めているように感じます。
以下のリンクは、平成31年2月14日教育委員会定例会の議事録です。「決定した」ことのあくまでも「報告」のみです。「特に重要な事項」として、レイマンコントロールを重視することなく、教育委員に審議してもらう必要がないと考えていることが伝わってきます。
◆ このままじゃ危ない!東京都の教育行政
1点の違いで合格か不合格かが決まってしまう入試において、これまでなかったスピーキングテストを導入することは、受験をする子どもたちにとって「特に重要なこと」です。
都教委が、「特に重要な事項」として扱っていない事実との乖離は、「子どもの最善の利益」を最優先に担うべき教育行政のあり方として、大きな問題です。
子どもたちにとって特に重要な高校受験に関わることを、「特に重要な事項」として扱わず、責任の所在も不明確なままで、問題が多々指摘されている英語スピーキングテストをこのまま実施するということは、今後も「なんでもあり」と宣言されている危機感すら抱きます。
文科省の「新しい学習指導要領等が目指す姿」では、「教育課程の基準となる学習指導要領等が、「社会に開かれた教育課程」を実現するという理念のもと、」と明記されています。
言うまでもなく、高校入試も教育の過程です。今回の調査と取材で見えてきた東京都の教育行政のあり方は、「社会に開かれた」どころか「閉ざした」まま強引に進めようとする姿勢しか見えて来ません。
さらに、学習指導要領では、子ども達の「育成すべき資質・能力」の一つとして、「社会の激しい変化の中でも何が重要かを主体的に判断できる人間であること」が上げられています。
今回の英語スピーキングテストの都立高入試導入を、子どもたちの立場に立ち「特に重要な事項」として扱うという選択をしなかった事実を見ると、このような「資質・能力」を、都教委自らが軽視しているように映ります。
とは言え、反面教師のままでいられても困ります。
不利益を被る子ども達を置き去りにして、この問題だらけの英語スピーキングテストを来年2月の都立高入試で実施させてしまったら、私たち大人が都教委のやり方に「お墨付き」を与えてしまうことに他なりません。 中止すべきものです。
さらに言えば、この東京都の試みは他の道府県に拡大していくことも考えられます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
都立高校入試を受ける子どもたち・保護者だけの問題ではなく、今を生きる子どもたちをどう応援するか、教育行政のあり方は、私たちの「未来」に通じるものであり、私たちの問題です。
少しでも違和感や疑問、問題意識をお感じになられたら、ぜひ、東京都に声を上げてください。
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