再開発と児童の学習環境 転入人口増加の裏には危機的な状況も・・・
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◆ 文京区人口 この16年で125%増加
文京区は、現在の成澤区長が初当選してから16年。その間に人口は、約4万6,000人増えました。年齢別の人口構成比率をみると、14歳までの人口が2.5%増加していることがわかります。
これは、「教育や子育てに手厚い文京区」である成果と言えるでしょうか?
人口増加の裏には、手放しで喜んでばかりはいられない現状があります。
今回は、人口増の大きな要因ともなり得る「大規模再開発」と、その影響を受ける学区域の小学校の学習環境について、課題を共有したいと思います。
◆ 春日後楽園駅前再開発で礫川小学校の児童数激増
人口統計を活用して将来予測を行い、様々な施策・計画に活かしていくことが、とても重要です。
ちなみに、大規模な再開発を行うと、人口にも大きく影響します。
シビックセンター前の春日後楽園駅前再開発事業では、税金約270億円を投入し、約700世帯が入るタワーマンションが建設されました。大方がファミリータイプで、学区の礫川小学校の児童数は大幅に増加しています。
◆ 誠之小学校 建て替え中なのにすでに教室が足らない!?
現在、改築2期工事をしている誠之小学校の児童数は、令和元年682人から、今年度は853人に増えています。
改築の設計では、普通教室は「文京区教育振興基本計画」の考え方を勘案し、「少人数指導等による学習に用いる教室を含め、各学年4教室とする。」としていました。
しかし今や、少人数指導用に設けていた教室も、学級数が増えて普通教室に転用され、当初予定していた各学年の少人数指導等の教室はありません。
また、図書室や和室、理科室のひとつも普通教室に転用される見込みです。
さらには、学年全員が一堂に活動することができるホールを設けたものの、図書室確保のために図書室と併用される予定です。
ちなみに、誠之小学校の学区内には、さらに民間事業者の大規模マンションの建築計画もあります。
これからの時代の教育を想定して設計したはずのものが、新たに建て替えたたばかりにもかかわらず、最低限の対応として、「学級数分」の教室を確保するだけで精一杯、という状況です。
誠之小に限らず、現在改築中の柳町小でも同様に、せっかく計画で設けた少人数指導のための教室が、児童数増加による学級数確保のために普通教室に転用され、使えなくなる可能性が高いです。
区内のどこの学校でも、一人ひとりの児童に寄り添い、きめ細やかな指導が行えるような、ゆとりのある空間を活用した学習環境とは程遠いのが現実です。
◆ 今後の大規模再開発 「後楽2丁目地区再開発計画」
これから再開発を進めようとしている「後楽2丁目地区の再開発事業」について、先月24日開催された都市計画審議会で、再開発のまちづくりの状況が報告されました。
後楽2丁目地区の再開発で、令和3年8月に改定した「後楽2丁目地区まちづくり整備指針」の基本方針は
「飯田橋駅に近接した文京区の南西の玄関口としての立地特性を生かした、活力と賑わいのある、安全で快適な複合市街地の形成」
「後楽2丁目地区まちづくり整備指針」より
この方針に基づき、まちづくりを進めていくことになっています。
▼ 後楽二丁目地区まちづくり整備指針(令和3年8月改定) https://www.city.bunkyo.lg.jp/bosai/machizukuri/machidukuri/kekaku/seibishishin.html
▼ 「まちづくりニュース」後楽二丁目北・北西地区しゃれ街等検討会・文京区地域整備課 http://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0254/4713/2023113104049.pdf
◆ 後楽2丁目再開発 金富小学校への影響は?
後楽2丁目地区に住む子どもたちの通学先は、金富小学校になります。
今、金富小学校は、区内の他の学校同様に、転入世帯の増加による児童数増加を受け、教室不足が深刻で、学級数分の教室を確保するのがやっとです。少人数学習等のための教室など、既に圧倒的に足りていません。
この再開発で、どれぐらいの規模の世帯数が増えるかによって、金富小学校の子どもたちの学習環境にさらなる大きな影響が生じます。
敷地は限られており、建替えをするにも、教室数の確保には物理的な限界があります。
都市計画審議会には委員として私も参加しており、「学区の金富小の学校規模を考え、入学できる児童数を想定した再開発を考えることがまちづくりとして重要」という視点で質疑しました。
区からは「どのような規模にするかなどまだ考えていない」とのことでした。
*都市計画審議会 都市計画に係る重要な事項について、区長の諮問に応じ、審議する機関。 地域地区の指定や再開発事業等の都市計画について審議し、区長に答申する。
◆ きめ細かな指導を行う少人数学習の場所がない!?
文科省は学校施設について、次のような環境が重要だとしています。
各学年段階における学習内容・学習形態等に応じ,一斉指導による授業,グループ学習,少人数指導による学習など、多様な学習集団に弾力的に対応できる空間を確保することが重要である
文科省HPより
子どもたちを習熟度別に少人数の学習集団に分けて、それぞれに適した学習コースを設定し、きめ細かな指導の充実と確かな学力育成を目指す「少人数学習」は、2000年以降に各学校で積極的に取り組まれ、文科省もその実態調査・分析で、次の通り効果的である、と結論付けています。
● 習熟の遅いグループに対する少人数指導が児童生徒の学力の底上げに関連がある。
● 習熟の早いグループに対する発展的指導は児童生徒の学力を伸ばすことに関連がある。
文科省 「習熟度別・少人数指導について」より
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/zenkoku/08020513/001/003.htm
習熟度別・少人数学習では、例えば、1つの学級を習熟度別に2つのグループに分けたり、2つの学級を3つのグループに分けたりして、少人数で授業を行うため、当然、教室以外にも学習の場が必要になります。
ところが、先にも述べた通り文京区では、近年の児童数増加で普通教室が足らなくなったため、元々は少人数学習用に利用していた部屋や空間を、既に普通教室に転用してしまっており、どの学校でも少人数学習の場の確保に苦慮しているという声が上がっています。
再開発によって、金富小の児童数がさらに増えて、ますます教室が足らなくなると、文科省がビジョンとして描く「新しい時代の学びを実現する学校施設」からは、大きくかけ離れた学習環境になってしまう不安が拭えません。
▼ 文科省「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り⽅について」最終報告【概要】 www.mext.go.jp/content/20220328-mxt_sisetuki-000021509_1.pdf
◆ 再開発で子どもたちの「今」を犠牲にしてはならない!
成澤区長の16年間の実績が、単に「人口を増やした」だけであってはならないはずです。
多様な子どもたち一人ひとりが学ぶ楽しさを実感できる学習環境を維持・向上できる児童数を基に、住民規模を考えた再開発計画にすることが、とても重要です。
多額の税金を投入して、大規模な再開発を行った結果、学区の小学校の子どもたちの学習環境を悪化させては意味がありません。
かつて、成澤区長は、
「我が文京区は、歴史と文化のまちであり、東京大学をはじめ多くの学校が所在する教育のまちです。文京区民は、この地を「文の京」とし、誇りとしており、私としても日本一の教育のまちを目指しているところであります。」
https://www.city.bunkyo.lg.jp/kusejoho/torikumi/keirin/comment/tochiji.html
と、「日本一の教育のまち」を目指す、と明言していました。
この方針は撤回したのか? はたまた、学級数分の教室さえあれば良いと考えているのか? 「そのうち児童数が減少に転じるまでの一時的なこと」、と高を括っているのか?
いずれにせよ、文京区立小学校の学習環境を悪化させて「日本一の教育のまち」の実現はあり得ません。
また、区は、区立小学校の一部では増築も実施していますが、「今の児童数増加に対処しても、近い将来に児童数が減少に転じたらどう活用するのか」と躊躇している面もあるのかも知れません。
事実、総務省の昨年8月の発表によると、2022年1月1日時点の住民基本台帳に基づく人口動態調査で1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)の日本人人口は前年比0.1%減の3561万115人となり、1975年の調査開始以来初めて前年を下回り、東京の人口は26年ぶりに減少に転じました。近い将来、都心部への転入人口も減少に転ずると予測されています。
日本経済新聞より https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA089K00Y2A800C2000000/
しかしながら、文科省は令和3年3月、約40年ぶりに学級編成の標準を一律引き下げ、小学校の全学年35人学級制(従来は小2以降40人学級制)を段階的に進めており、従来より多くの教室数の確保が必要です。さらには、現場からは「35人学級でも多い」との声もあり、30人学級への議論が今後進む可能性も十二分にあり得ます。
さらには、文科省が「新しい時代の学びを実現する学校施設の在り⽅について(最終報告)」で示した「新しい時代の学びを実現する学校施設の姿(ビジョン) Schools for the Future」でも、「『未来思考』で実空間の価値を捉え直し、学校施設全体を学びの場として創造する」としており、限られた物理的空間を柔軟に活用することが求められています。
つまり、こういった将来ビジョンを具現化する活用を見据えた上で、今の児童数増加に対処することは創意工夫により可能であり、やらなくてはいけないことです。
一時的にせよ、再開発等による転入世帯増加で増えた子どもたちの「今」を大切にし、窮屈な学習環境で我慢を強いるようなことがあってはなりません。
◆ 再開発計画には、子どもたちの「今」の学習環境を向上させる視点を!
上述した通り、まだ規模も決まっていない後楽2丁目再開発計画です。
であるならば、学区域の小学校で学ぶ子どもたちの「今」を見据えて、より良好な学習環境の実現を目指す再開発計画にして欲しいと強く願います。
先に紹介した「後楽二丁目地区まちづくり整備指針(令和3年8月改定)」には、次のような「まちづくり基本方針」が掲げられています。
飯田橋駅に近接した文京区の南西の玄関口としての立地特性を生かした、活力と賑わいのある、安全で快適な複合市街地の形成
後楽二丁目地区まちづくり整備指針(令和3年8月改定)
https://www.city.bunkyo.lg.jp/bosai/machizukuri/machidukuri/kekaku/seibishishin.html
繰り返しになりますが、既に、文京区立小学校はどこも、児童数増加による教室不足が深刻で、一人ひとりの子どもにきめ細かく寄り添う指導が困難になっているのが現状です。
▼ 関連ブログ記事
- 2019年4月9日 小学校の教室が足りない!? 教育日本一を目指す文京区の学校整備は発想の転換を! http://a-kaizu.net/blog/archives/955
- 2020年10月8日 期待される30人学級の導入、でも教室が足りない!? 危ぶまれる文京区の教育環境 http://a-kaizu.net/blog/archives/1408
区民が抱える現状の課題を解決することは、再開発の大きな目的のはずです。
「転入者を増やし、来訪者を増やし、賑わいを創出する」のは、「付加価値」と言えるのではないでしょうか? つまり、付加価値とは、今ある価値の上に「付け加える」ものです。
「今」の価値が低下している現状があるなら、それを取り戻したり改善したりする「再開発」の方が優先されるべきなのは言うまでもないことです。
デベロッパーは建築基準法等に準拠していれば建物を立てられますが、文京区に新しく小学校を建てることは、現実的に不可能に近いです。であれば、持続的で良好な学習環境の構築上、今ある小学校の適正な児童数を勘案し、それを再開発計画の中で考慮していくことが不可欠です。
顔の見えない不特定多数の人々を呼び込むアピールとして、まちの魅力を高めるより、「今」暮らしている区民一人ひとりの生活全般の質を、より高めるような再開発にこそ、区民の血税を投入して欲しいと切に願います。次代を担う子どもたちにはなおさらです。
ぜひ、今後の文京区の再開発のあり方にご注目ください。
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シビックセンター前の再開発のひどさにはビックリしました。時代錯誤というか、いったい「だれ得?」なんでしょうか。税金が270億円も投入されていたとは。なんでだれも怒らないんでしょう。