台風水害への備え~自治体自身がハザードマップを軽んじる??浸水想定地の学校改築設計に見る危機感の甘さ

東日本を中心に甚大な被害をもたらした台風19号。本稿執筆時点(20日)で、亡くなられた方は81名となり、住宅の浸水被害は53,000棟以上、半壊や全壊など損壊した家屋は25,000棟以上に。被災された方々には心からお見舞い申し上げます。また、さらなる台風や低気圧が日本に迫っています19号で緩んだ地盤は土砂災害の危険が増します。早め早めの行動を心がけ、躊躇することなく助けを求めてください。

 

今回の被災地の多くは、自治体が公表しているハザードマップで浸水想定地域に指定されていた場所だったと報道されています。千曲川の氾濫で浸水した長野新幹線車両センターもそのひとつで、10メートルの浸水想定だったとのことです。北陸新幹線の車両の3分の1に当たる120両が被害にあい、車体水に浸かっている映像をご覧になった方も多いと思います。損害額は車両だけで三百数十億円にのぼる計算とのこと。この新幹線車両センターの建設において、JRはハザードマップをみて、浸水の危険性をどのように理解していたのでしょうか。JRがどのように考えていたのか、知りたいところで

これはけっして他人事でなく、私たち一人ひとりがハザードマップに書き込まれた情報をどう読み解き、どう受け止めてどう動けば良いのか、今回の災害で突き付けられた課題のように感じます。

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みなさんは、住んでいる自治体が公表しているハザードマップを見たことがりますか。自分が住んでいる地域がどのような特性なのかを知り、リスクに応じて備えることが重要ですので、ぜひ確認されることをお勧めします。

 

いっぽう各自治体は、自分たちが公表するハザードマップをどのように考えているのでしょうか。文京区の一例を紹介します。

文京区では、水害ハザードマップ上、浸水想定区域にある文京区立柳町小学校の建替えを計画し、設計が終わった段階です。この設計内容について、議会で質疑を重ねてきた中で、文京区が水害ハザードマップをどのように位置づけ、どの程度のリスクを想定し、想像の射程をどこまで広げているかが垣間見えてきました。

 

柳町小改築設計が始まった平成29年4月の段階で、大雨が降り浸水した場合に想定される水深は最大5メートルでした。みなさんは、そうした土地に建つ学校の建替えをするとしたら、どんなことを考えて設計をすべきとお考えになるでしょうか。

文京区は、子どもの安全確保を最優先として、子どもたちが通常使う教室は2階から上の階に配置し、避難所となる体育館は3階に配置する等の配慮をしています。ここまでは、問題ありません。

しかし、先生たちが通常使う職員室は1階に作る設計です。理由は、子ども達の安全管理に重点を置き、子どもたちが出入りする校庭や昇降口に隣接した1階に職員室を配置する設計とのことです。文京区立小学校20校中12校、比率にして6割の学校の職員室は2階にありますので、1階に配置しなければ子どもたちの安全管理ができない、ということではない事は明らかです。子どもたちの教室と同じ階に職員室があることは、休み時間でも子ども達の様子が伝わってきて安心だ、との声を先生たちから多く聞きます。

文科省の小学校施設整備指針には、次のように明記されています。

配置構成

(3) 職員室は,屋外運動場,アプローチ部分などの見渡しがよく,校内各所への移動に便利な位置に計画することが重要である。

(4) 職員室は,学習関係諸室等に近い位置に計画することが望ましい。

上記の2つの項に照らしてみても、2階、3階、4階に各教室が配置されることから考えれば、1階よりも2階に職員室を作るほうが理に適っています。そもそも職員室は、災害時には教育委員会と密に連絡をとり、子どもたちの安全確保を図る最前線、司令塔となる拠点です。水害で職員室が浸水すれば、重要な書類やパソコン、電話機ネットワーク機器等が水浸しになり、災害対応をする拠点としての機能を失ってしまうことが考えられます。発災後の早期学校再開を目指す点においても、子どもたちの貴重な記録が水に浸かってしまったり、速やかに子ども達への指導、学校経営の再開を図る上で多大な影響が出ることは、十二分に想定されることであり、想定すべきことです。

 

水害ハザードマップについて議会で質疑をした時の答弁から、区が、水害ハザードマップをどのように考え、災害対策にあたっているか本音とも取れる考えの一端が垣間見ます。そういった観点から一読されてみて下さい。

<各議事録より抜粋>

危機管理室長:

1000分の1の確率ですけれども、起こり得る中で、何がどこまでできるかと。もし、可能であれば、違うことはどのようにやるかと。例えば、この雨の特徴としては、台風は、大型の台風が来るということ、それから、前線が停滞をしていると、こういう状況の中でやってくるわけですから、避難ということ、委員のおっしゃるデータというような話であれば、それは時間的には、台風の襲来というのが、気象庁のほうではある程度前から予測しているという状況もありますので、地震のように、今起きるという性格のものではなくて、ある程度時間の余裕がある中での対策は可能なものであるというふうに認識をしております。

(2018年6月11日災害対策調査特別委員会議事録より)

つまりは、時間があるのだから、強い大雨の危険があるときには、1階の職員室から大事なものは2階等に運べばことは足りる、という考え方です。
今回の台風19号の被災者に限らず、過去の水害被災者の方々は口々に「見る見る間に水嵩が増してきた」とおっしゃっています。浸水想定地への建築設計にも関わらず、浸水したら「大変」という危機感が乏しいと言わざるを得ません。1階が浸水して被災された方々は2階へ家財等を移動することを怠ったとでも考えているのでしょうか。教職員の働き方改革を進める点からも、あらゆる想定した上で「仕事を増やさないように」事前に対処しておくことは重要な観点だと思います。

 

危機管理室長: 

こちらの雨の想定というのが、平成12年9月の東海豪雨、総雨量589ミリで、時間雨量最大で114ミリで3日間雨が降ったということを前提に作ったマップということになっておりますので、こういったことが前提になっているということで御理解をいただければと思っております

(2018年3月14日予算審査特別委員会議事録より)

東海豪雨のような大雨は滅多に来ないのだから心配するほどのことではない「そうそうあり得ことじゃない」、つまりは、「想定しなくてもまあ大丈夫。心配しすぎと考えているように受け取れます。いったい何のための「水害ハザードマップ」なのでしょうか?

 

教育推進部長: 

職員室の関係については、千川通りに今後直径10メートルのシールドを使って、約7メートルの遊水管を設置するということで、現在柳町小学校も含めて、ハザードマップが今後変わっていくだろう、浸水の危険性が低減をするという工事が進んでまいりますので、御心配いただいている点については、これをもって解決するものと思ってございます。御安心いただければと思います。

2018年3月14日予算審査特別委員会議事録より)

昨年6月に改訂された水害ハザードマップは、想定しうる最大規模の降雨を総雨量690mm・時間最大雨量153mmに上げて浸水被害をシミュレーションし直しました。その結果、柳町小はいまだに1~3メートルの浸水が想定されています。安心というのは、どこをもって安心と言うのでしょうか。懸念が消えません。

何をもって「安心」というのか。その根拠が示されない中、想像の射程を広げないことには危機管理としての甘さを感じます。水害ハザードマップの浸水など「滅多にあり得ないこと」という前提に立っているように思えてなりません。被害を想像する射程距離が短く、一度決めた設計を変えなければならないほどの災害など起こるはずがない「大げさだ」と迷惑がっているようにしか聞こえない区の答弁です。区民に対して、個人的感覚ではなく、客観的事実、根拠に基づき「安心してくださいこのように、役所や教育委員会と速やかに連携をはかり、子どもたち、被害者の支援にあたれます」という説明責任を果たすことが自治体の責務だと考えます。

 

8年前に私たちが経験した未曽有の大災害「東日本大震災」を教訓とし、東京電力福島第一原発事故の最終報告書には、「あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こると、事故で得られた知見として掲げられていました。の言葉は私の心に浸みこみました。議員活動をする上で、いつも忘れることのできない言葉となっています。

区民の安心・安全を視点に施策をチェックしていく上で、「あり得ないと思うことも起きるかもしれないと想定する」ことの重要性を顧みず、「設計も完了しているから、これくらいで大丈夫だろう」という妥協は、致命的なリスクになることをあらためて肝に銘じるべきです。

自然災害で、かけがえのない命や大切な生活を失うのは、いつも住民であり、役人が責任を取ってくれることはありません。役人は、日頃の仕事にこそ責任を注ぐべきではないでしょうか。

 

災害対策基本法には以下が定められています。

(災害応急対策及びその実施責任)
第五十条 災害応急対策は、次に掲げる事項について、災害が発生し、又は発生するおそれがある場合に災害の発生を防御し、又は応急的救助を行う等災害の拡大を防止するために行うものとする。

災害を受けた児童及び生徒を守るためにも、災害対策の司令塔として職員室が十分に機能できるように、しっかりと想定した設計をしこそ、ハザードマップの意味があるはずです。

ましてや、ハザードマップは区が住民に向けて公表し、日頃の備えや避難など安全確保を呼び掛ける「根拠」となるものです。にもかかわらず、それを区自らが軽んじて学校の設計を行うようでは、区が自ら示した「根拠」を自ら否定していることになります。あえて強い言葉で表現するならば、区が「住民の生命・財産を軽んじている」ことに他なりません。

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最後に・・・

こうした設計は、残念ながら文京区だけに限りません。他の自治体でも、水害時の浸水が想定されている土地にもかかわらず、改築する学校の職員室が1階に設置される例が見られます。「あり得ないと思うことも起きるかもしれないと想定する」ためには、様々な視点から想像の射程距離を広げるしかありません。行政職員だけで決めるのでは、想像の射程距離が不十分であると言わざるを得ません。専門家の知見も取り入れた上で、保護者や教職員、地域住民等、様々な立場の方々の想像力を結集して、けっして「げさ。心配し過ぎ」と思わない事が重要でしょう。

これからの日本は、「これまでに経験したことのないレベルの災害」が頻発するかも知れない時代です。公共施設や学校にとどまらず、まちづくり等ハード面の設計には「人命がかかっている」という、より厳しい視点をもって区政のチェック、提案に努めていきます。

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【▼各議事録の抜粋箇所以外の部分はこちら↓でご覧いただけます。】

・2018年3月14日予算審査特別委員会議事録 
http://a-kaizu.net/blog/wp-content/uploads/2019/10/08df11d010b9887471134e4d63f11e4e.pdf 

2018年6月11日災害対策調査特別委員会議事録 
http://a-kaizu.net/blog/wp-content/uploads/2019/10/7013307caff09301a5a89eae5210269c.pdf

 

【▼関連記事】

《自然災害の脅威は他人事?-地方自治体の危機管理意識(ハフィントンポスト・海津敦子)》 
https://www.huffingtonpost.jp/atsuko-kaizu/disaster-20180615_a_23458613/

 

【▼関連資料】

◆文京区水害ハザードマップ 
https://www.city.bunkyo.lg.jp/bosai/bosai/bousai/Panfu/hazard/hazard.html 

◆神田川洪水ハザードマップ 
https://www.city.bunkyo.lg.jp/bosai/bosai/bousai/Panfu/hazard/kouzui.html 

◆文京区土砂災害ハザードマップ 
https://www.city.bunkyo.lg.jp/bosai/bosai/bousai/Panfu/hazard/dosyasaigai.html

 

ハザードマップ 柳町小学校

 


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