人権尊重のオリンピック精神はどこに!?~東京都オリパラ教育の集大成「幼稚園から高校100万人無料観戦」

 

東京都教育委員会(以下、都教委)は、

東京オリンピック・パラリンピックの開催都市として、都内公立の幼稚園から高校まで約2300校の在校生、100万人近い子ども達に競技を無料で観戦できる機会を提供する。

としています。

 

東京2020大会組織委員会は、東京オリンピック・パラリンピックを学校ごとに観戦できるように、全国の希望する自治体にチケットを配券しています。

都教委が都内の区市町村立学校を含むすべての公立学校・幼稚園へのチケット提供を希望したのは、平成28年度から公立全学校で実施しているオリンピック・パラリンピック教育の集大成として、直接観戦させて、一人ひとりの子どもの心にレガシーを残すことを目指してのことです。

 

猛暑の中での開催ですので、当然、都教委は、熱中症等の事故に対する細心の注意を払う姿勢を示し、子どもたちの安全な観戦を第一に、各学校で引率を行うことや、熱中症等の事故だけでなく、公共交通機関のかなりの混雑が想定されることから、幼稚園や小学校低学年の参加について、各教育委員会での十分な検討を求めています。

また、都教委は、公共交通機関の混雑緩和のため、競技会場まで徒歩圏内にある学校・園は最寄り会場への割当を優先するともしています。例えば、国立競技場での競技は、渋谷区等の子どもたちが優先されることかになるのかと想像します。

さらには、観戦チケットの申込みにおける留意事項として、競技場最寄り駅の相当な混雑を回避するために、一般観客の入退場ピークを避けた時間帯を指定して、途中入場や途中退場をしてもらうケースが多くなることが記され、さらに、都教委は「口頭」で、各教育委員会に対して「最寄駅からでなく一駅手前から歩くなどの配慮」をお願いしています。

 

 

文京区教育委員会では、区立幼稚園の年長から区立中学生まで約1万2000人の子どもたちの観戦を申し込みしています。幼稚園に関しては、公共機関のかなりの混雑や暑さを考慮し、開催が9月になるパラリンピック競技観戦を申し込み、競技場までのバスの手配についても視野に入れて検討しています。

授業として位置付けるかどうかは、各教育委員会の判断にゆだねられています。文京区は授業とは位置付けず、夏季休暇中の教育活動の一環として、参加するもしないも自由とする方向です。引率する先生たちは出張扱いになるとのことです。

 

都教委が、「東京オリンピック・パラリンピック教育の集大成」として、子どもたちに観戦の機会を提供することに対して、保護者の声は様々です。

  • まじかで観戦してこられるのはいい思い出になると思う
  • 観戦に空きがあるところを埋めるために、子どもたちが動員されて利用しているだけでしょう
  • 夏の一番熱い時期に熱中症が心配だけど大丈夫?

 

先生たちからも、

事前に競技会場までの経路や会場の安全確認しても、相当な暑さと観戦者の多さなどで体調を崩す子どもが多数出るかも知れないだけに、

  • 子どもたちの安心と安全確保を十分にできるか自信がない・・・
  • 観戦をすることがオリンピック・パラリンピック教育の集大成になるとは思えない

との声が聞こえてきます。

 

 

◆ 東京オリンピック・パラリンピック教育とは?

開催地である東京都教育委員会が作成した「東京都オリンピック・パラリンピック教育」を読むと、以下の記載があります。

東京都オリンピック・パラリンピック教育
https://www.o.p.edu.metro.tokyo.jp/opedu/static/page/open/permanent_pdf/implementationpolicy.pdf

東京都オリパラ教育

東京都オリパラ教育

 

「資質」とは、本来は、「生まれつき持っている性質や才能」を示すものです。

ところが、都教委が使う「資質」の意味は、文部科学省の「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」による以下の概念整理に基づいて使っているようです。

 

1)「資質」「能力」の概念整理

  • 「資質」「能力」について、例えば、教育基本法第5条第2項では、義務教育の目的として、「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うこと」とされている。
  • ここで、「資質」とは、「能力や態度、性質などを総称するものであり、教育は、先天的な資質を更に向上させることと、一定の資質を後天的に身につけさせるという両方の観点をもつものである」田中壮一郎監修『逐条解説 改正教育基本法』第一法規, 2007年)とされており、「資質」は「能力」を含む広い概念として捉えられている。
  • また、学習指導要領では、例えば、総合的な学習の時間の目標として、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成する」こととされている。
  • これらも踏まえ、本検討会では、「資質」と「能力」の相違に留意しつつも、行政用語として便宜上「資質・能力」として一体的に捉えた上で、これからの時代を生きる個人に求められる資質・能力の全体像やその構造の大枠を明らかにすることを目指すこととした。
育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会― 論点整理 ―
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2014/07/22/1346335_02.pdf

 

都教委は、「国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質」として、

  • ボランティアマインド
  • 障害者理解
  • スポーツ志向
  • 日本人としての自覚と誇り
  • 豊かな国際感覚

が必要で、オリンピック・パラリンピック教育を通して身に付けさせようとしているのだと思われます。

 

 

◆ オリンピック精神を生かした教育方針は盛り込まれていない!?

オリンピック憲章には、以下のことが謳われています。

  • すべての個人はいかなる種類の差別も受けることなく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。
  • オリンピック精神においては友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる。
  • いかなる種類の差別とは 「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会のルーツ、財産、出自やその他の身分などの理由によるいかなる種類の差別も拒否すること」「あらゆる形態のハラスメントを拒否すること。それには身体への、職業上の、もしくては性的なハラスメントも含まれる」

 

オリンピック・パラリンピックの開催を機に重点的に育成すべき「資質」があるならば、オリンピック憲章にうたわれる精神に関連付けて、「いかなる種類の差別も許されない」人権尊重があって然るべきではないでしょうか。

オリンピック・パラリンピック教育を通して、スポーツ・文化・環境を学ぶにしても、そのベースに、障害の有無・人種・肌の色・性別・性的志向・経済力、等々で、差別することは許されないということを知っておくことが重要だと思えてなりません。

養うべき「資質」に、人権尊重の理念理解が入っていないことは違和感を覚えます。

ひとり取り残されることなく尊重される社会、「いかなる種類の差別も許されない」という社会を本気で実現しようと思ったら、教育がとりわけ重要、不可欠だと思うのです。

 

東京都は昨年10月に。「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」(以下、都条例)を策定しています。

都条例は、外国人等に対する差別的取り扱いについての規定はされていませんが、「性自認および性的志向を理由とする不当な差別的取り扱いの禁止」を明記し、「都は、不当な差別的言動を解消するための啓発等を推進するものとする」としています。

しかし残念ながら、都教委の「東京オリンピック・パラリンピック教育の実施方針」の中には、性自認および性的志向を理由とする不当な差別的取り扱いを解消するための指針は見つかりません。本来であれば、都条例を具体化するなら、東京オリンピック・パラリンピック教育の中で差別的言動を解消するために「教えていく」ことが必須だと思います。

 

例えば、学校現場は、多様性を尊重するオリンピック憲章を基にして、性の多様性について、学校でしっかりと伝えていく。LGBTに加え、自らの性に確信が持てない「Q」を加えた「LGBTQ」まで子どもたちに教えていくこと重要ではないでしょうか。

学校で「習ってくる」そうした時間は、子どもたちが自分自身を否定することなく、「どんな自分でもあっても排除されることはない」という安心感の元で日々を過ごし育っていく時間につながると思うのです。

 

 

◆ 保育園児は対象外!?

今回の参観は幼稚園・子ども園の年長児5歳児からなのですが、なぜ、保育園は対象外なのか?疑問です。都教委に尋ねたところ、

保育園は管轄が違うから

とのことでした。

都内では園庭のない保育園が増加し、園庭の設置が必須とされている幼稚園の子どもたちとでは、室内・屋外共に様々な遊びの格差が広がっています。幼児期には「自分がしたい遊びを存分に遊びきる」体験が成長に欠かせないとされているだけに、重要な課題です。

 

そもそも、幼稚園だけが就学前教育・保育をしているのではなく、保育園も幼稚園学習指導要領と同様の内容である「保育指針」に基づき就学前教育・保育を実施しています。

文京区は、「文京区版幼児教育・保育カリキュラム」を策定しています。これは、区立保育園でも、区立幼稚園でも、等しく質の高い幼児教育・保育を提供する環境を整えることにより、次代を担う子どもたちの心身共に健やかな成長と「生きる力」の基礎を育てることを目的としたものです。

文京区版幼児教育・保育カリキュラム 
http://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0108/3238/shiryoudai2gouri-huretto.pdf

 

文京区として、認可保育園の子どもたちに対して、幼稚園同様の機会の確保をどう考えていたのでしょうか

保育園児にも、ぜひオリンピック・パラリンピックを見せてあげたいと考えたものの、暑さや交通の混雑、安全に移動するための引率の確保等を勘案して、断念した

とのことです。

誰ひとり取り残さない社会をめざす東京都です。そもそも保育園児たちには選択の機会さえ提供されないことから生じる体験の格差拡大について、都が思いを馳せることができなかったのだとしたら、実にもったいない気がします。

 

 

◆ 医療的ケア児・生徒保護者のチケット代は自己負担!?

特別支援学校の、保護者による医療的ケアを必要とする児童・生徒の保護者に限り、都教委は、

観戦チケットは確保するがチケット代は都教委の負担対象外とする。

としています。

 

都教委が、このケースにはチケット代を出さないとすることに強い怒りを感じます。

そもそも、「保護者による医療的ケアを必要とする児童・生徒」は、児童・生徒が「介助者を保護者に限定しての医療的ケアが必要」ということを意味するものではありません。 

都教委、各教育委員会が、医療的ケアを必要とする子どもが合理的配慮として看護師等を求めたときに、見つからないために、「お子さんの安全のためには、保護者がついてください」と「お願い」をして、保護者がついている子どもたちのことです。

にもかかわらず、その保護者のチケット代都教委として負担しないというのは、まったく理解ができません

ましてや、パラリンピックのホストタウンである東京都の教育委員会です。合理的配慮を提供できないことの意味をわかっていないのでしょうか

都教委がチケット代を負担しなくても、文京区内に対象となる「保護者による医療的ケアを必要とする児童・生徒」がいたなら、文京区教育委員会がチケット代を負担することを求めていきます。

 

 

◆ 期間中、学校の宿泊学習は中止!?

最後に、東京オリンピック・パラリンピックは、学校の教育活動にも大きな影響を及ぼしています。

オリンピック・パラリンピックを成功させるためオールジャパンで対策をとっていこう!そのためには、オリンピックの開催時期にはバスの需要が大きくなるから、バスを使う宿泊学習は配慮してほしい、という通知が出されました。中止にしてほしいとも読み取れるような通知が出されています。

東京オリパラ開催におけるご理解ご協力のお願い

2020東京大会の開催におけるご理解ご協力について

 

実際、文京区では例年夏休み期間中に実施してきた岩井臨海学校が、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の意向を踏まえ、バスが手配できないといった理由で、来年度の岩井臨海学校の開催を見送る方向で検討が進んでいます。

臨海学校での遠泳を楽しみに、プールでの水泳の時間を頑張ってきた子どもの中には、大きなショック受け、泣き出す子どももいるほどです。

この問題については前回のブログで詳しく書きましたのでご参照ください
http://a-kaizu.net/blog/archives/1067

 

 

大会の成功も大事ですが、同時に国民の日常生活に支障が出ないようにしなければなりません。子どもたちの心に残るのは「負の遺産」になってしまう可能性も否定できず、気がかりでなりません。

平成28年度から公立全学校で実施しているオリンピック・パラリンピック教育の集大成として、レガシーを残すことを目標にしているのならば、「いかなる種類の差別も許されない」人権尊重の心こそをレガシーとして子どもたちが育む機会にして欲しいと心から願っています。

 

東京都2020オリンピック・パラリンンピック

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